第38回愛知県母性衛生学会
第38回愛知県母性衛生学会一般演題
掲載期間:令和2年5月18日(月)~ 6月30日(火)
1. 分娩を取り扱う助産所助産師がとらえる産後ケアに対する認識と地域における助産所の存在意義
○柳瀬 千恵子 1)、 高橋 由紀 1)、山田安希子 1)
1)名古屋大学大学院医学系研究科看護学専攻
- 【背景】
- 妊娠・出産は、女性にとって人生における喜ばしいライフイベントの1つであるが、産科合併症の増加や、子育てのしにくさ、抑うつ傾向を示す母親が増加している。
- 【目的】
- 分娩を取り扱う助産所助産師は産後ケアに対してどのような認識をもっているのか、地域における助産所の存在をどのように捉えているのかを明らかにする。
- 【方法】
- A県内の分娩を取り扱う助産所所長を研究参加者として半構造化面接を実施し、質的帰納的に分析した。本研究は名古屋大学大学院医学系研究科生命倫理委員会の承認を得て実施した。
- 【結果】
- 8名の研究参加者を分析対象とした。平均インタビュー時間は、60.3±22.3(38-102)分であった。715コードより抽象度を上げ、助産所助産師の認識として、【最近の母親と子供を取り巻く社会背景】【健康な母子・家族を支える関わり】【切れ目ない子育てを支援する場】の3コアカテゴリーが抽出された。
- 【考察】
- 助産所助産師は、産後の母子を支えることは“当たり前のケア”と認識し、社会の特性や風潮を考慮しながら、母親の特性をとらえ、継続的な個別性ある姿勢で関わることで、母子や家族の心身の健康的な生活を支える関わりをしていることが明らかになった。また、助産所の地域における認知度は低いが、いつでもだれでも来院できる、切れ目ない子育て支援を実践する場として認識されていることが示唆され、助産所は、助産師にとって専門職としての役割を発揮できる実践場所であることが考察された。
2. MEWSを活用し、多職種チームで協働できた一事例(実践報告)
○中村 友里恵 1)、 野々垣 果代子 1)、 立松 あき 1)、 久保田 由美 1)
1)名古屋第二赤十字病院
- 【はじめに】
- 妊産婦死亡第1位の産科危機的出血は、初発症状出現から比較的早い経過で進行し心停止に至る。MEWS(Modified Early Warning Scoring.以下MEWSと略する)は、呼吸数、心拍数、収縮期血圧、意識状態、体温といった複数指標を点数化し、急変を予期できる。心停止の6~8時間前に出現する異変を感知し対応することで救命率が上がり、予後もよいとされている。
- 【目的】
- MEWSを活用し、多職種で協働し、緊急事態に対応できた事例を報告する。
- 【実践内容】
- A氏は癒着胎盤で90分後に胎盤用手剥離を行った。児娩出後約150分で発汗著明(SI>1.5)となり、その後呼吸苦が出現(SI>2)、産科危機的出血への対応ガイドラインに沿い補液や輸血を行なっていた。「このまま産科だけで対応してよいのか」と考えた助産師がMEWSを算出した結果、呼吸数2点、心拍数3点、収縮期血圧2点の計7点であり、院内緊急コールの基準を満たしていた。
- 【結果】
- 救命医、ICU看護師と協働し、全身管理を行なったA氏の回復は良好で母子ともに5日目退院した。
- 【考察】
- MEWSによる客観的指標が協働するチームの共通認識となった。その結果迅速に対応でき、A氏の早期回復につながった。SIだけでなくMEWSによる急変の予測が重要である。周産期においても全身評価を意識した教育が必要である。(B病院看護部承認2019121)
3. 不育症治療施設を初めて受診する女性の受診動機と受診時に抱えている思いに関する研究
○辻 成美 1)、渡邊 実香 2)、石川 美江 3)、杉浦 真弓 4)
1)元名古屋市立大学大学院看護学研究科、2)名古屋市立大学大学院看護学研究科、
3)名古屋市立大学病院、4)名古屋市立大学大学院医学研究科産科婦人科学分野
- 【目的】
- 不育症治療施設を初めて受診する不育症女性の受診動機と、受診時に抱えている思いを明らかにする。
- 【方法】
- A県内の不育症治療施設を不育症検査目的で初めて受診した不育症女性を対象に、インタビューガイドを用いた半構造化面接法による質的記述的研究を行い、質的帰納的に分析した。
- 【結果】
- 6名に協力を得た。受診動機に関する7つの語りと、受診時に抱えている思いに関する124コードが抽出された。動機は“医師からの勧め”、“自らの意思”、“家族からの勧め”の3つに分類され、思いは4つの大カテゴリー[流産に苦しめられる]、[繰り返す流産に負けていられない]、[自分にできる検査や治療があるならやっておきたい]、[検査を受けることに迷いを抱きながら受診する]に分類された。
- 【結論】
-
多くの不育症女性は“医師からの勧め”により受診しており、不育症女性の受診行動は医師の判断に強く影響を受けていた。想定外の流産に戸惑いをみせた不育症女性は[流産に苦しめられる]状況にあり、そんな中[繰り返す流産に負けていられない]と奮起し、[自分にできる検査や治療があるならやっておきたい]と受診する姿が見られた。一方、[検査を受けることに迷いを抱きながら受診する]状態で、迷いを払拭できないまま持ち合わせていた。
不育症治療施設を初めて受診する患者は流産を十分に受け入れられていない場合があり、受診しているとはいえ必ずしも検査に前向きではなく、時には迷いながら受診に至っていることを医療者は心得ておく必要がある。